アイトラッカー サンプリングレート

Eye tracker Eye tracking technique Eye movement

ここでは、アイトラッカーのサンプリングレートとデータへの影響について説明します。

サンプリングレートは、アイトラッカーが1秒間に取得するデータの数を指します。サンプリングレートが高くなるほど眼球の動いた経路を正確に算出する能力が上がりますが、膨大なデータの処理や、搭載するアイトラッキングカメラの性能などによってコンピュータにかかる負荷も増えます。
サンプリングレートを決める前に自分の研究に必要なサンプリングレートを理解しましょう。

Sampling frequency of eye movements

図1 時間経過に合わせた実際の視線の水平軸の動きの波形です。垂直の線はアイトラッカーが目の画像を取得し視点を算出するタイミングを表しています。

図1の動きを考えてみましょう。停留があり、サッカードが起きて次の停留へと移っています。青で囲まれた点のみのタイミングで視線を取得するか、その倍の垂直線すべてのタイミングで視線を取得するかで取得間隔が異なり、間隔が短いほうが実際の眼球の動きに近い視線を検出できる可能性が上がります。使用するアイトラッカーのサンプリングレートが60Hzの場合、サンプリングの間隔は16.67ms(ミリ秒)です。サンプリングレートを2倍の120Hzにするとサンプリング間隔は半分の8.33msになります。600Hzまたは1200Hzでサンプリングする場合、サンプリング間隔はそれぞれわずか1.67ms、0.83msです。

2つの異なるサンプリングレートで取得した視点から実際の波形(視線の移動経路)を再構築しようとした場合、全く同じ結果にはなりません。(図2および図3参照)

再構築された波形だけで判断すると、図2のタイミングで取得した場合サッカードが非常に直線的な印象を与えますが、2倍のサンプリングレートである図3では実際の動きに近くなっています。

図のサッカードはサンプリングレートが遅くても十分に検出可能な大きなサッカードでしたが、とても小さなサッカードは検出できない可能性があります。

Sampling frequency of eye movements

図2 図1と同様に時間経過に合わせた水平軸の視線の動きの波形です。低いサンプリングレートで取得した視点による視線移動の推定経路となります。垂直の線はアイトラッカーが目の画像を取得し視点を算出するタイミングを表しています。

Sampling frequency of eye movements

図3 図1と同様に時間経過に合わせた水平軸の視線の動きの波形です。高いサンプリングレートで取得した視点による視線移動の推定経路となります。垂直の線はアイトラッカーが目の画像を取得し視点を算出するタイミングを表しています。

眼球運動の種類と計測に必要なサンプリングレート

Sampling frequency & eye movements

マイクロサッカードやその他の「停留」に関する眼球運動、またはサッカード後の振動などの「眼球運動自体の特性」を研究( 例:Juhola, Jäntti, & Pyykkö, 1985)するのであれば、より高いサンプリングレート(且つノイズの少ない)のアイトラッカーが必要です。
停留やサッカードの開始や終了のタイミングをより正確に計測できるので、停留時間やTime to First Fixation(対象エリアに停留が出来るまでにかかった時間)などのメトリクス解析においても高品質なデータによる解析が可能となります。

Andersson、Nyström、Holmqvist(2010)らの研究では、潜時と2つのサンプリング間の時間について区別されています。

 潜時の計測は、例えば、ターゲットに対する最初の停留の時間であると言えます。これには始点と終点が必要です。始点は誤差による影響が少ないサンプリングレートを持つアイトラッカーが判定し、終点は停留フィルターの計算によって決定されます。実際の停留の開始タイミングはサンプリング間隔のどこかであり、サンプリングタイミングの直前の可能性も、直後の可能性もあります。直前であればすぐに検出できその誤差は0に近くなりますが、直後に起こっていた場合は次のサンプリングタイミングまで待つ必要があり、その誤差はサンプリング間隔の時間に近くなります。60Hzのアイトラッカーでは最小誤差と最大誤差はそれぞれ0と16.67msとなりますが、平均するとサンプリング間隔の半分、8.33msとなります。
したがって、被験者が同じタイミングでターゲットに反応していても、60Hzのアイトラッカーで計測した場合、潜時は最大で16.67msの変動幅を持ち、分析にはそのノイズが加わります。これは、潜時の測定値が実際よりわずかに長く評価されることを意味します。

 停留時間の算出では、開始と終了の両方にサンプリングレートによる誤差が生じますが、開始と終了の両方の誤差が互いに打ち消しあうので、正確な停留時間の算出が可能です。これは平均して起こるので測定値に偏りはありません。ただし、停留の開始と終了のタイミングには誤差が生じます。これはサンプリングのタイミングは0ですが、ノイズの範囲が-16.67msから+16.67msになることを意味します。

実施には、こういった誤差は解析上のノイズや不確実性につながり、統計的有意性や信頼度の高いデータを取得することが難しくなります。対策として簡単な解決方法は十分に高いサンプリングレートのアイトラッカーでデータを取得することです。ノイズレベルが低い実験環境ではサンプリングレートの低いアイトラッカーでもうまく計測できたケースもありますが、経験則ではサンプリングレートは調べたい事象の継続時間の半分である必要があります。サンプリングレートの高いアイトラッカーを使用せずに、データの不確実性を減らしたい場合は追加計測でデータ量を増やすという方法もあります。

Andersson, Nyström & Holmqvist, (2010)らの研究によれば、サンプル数を4倍にすればサンプリングレートを2倍にした場合に相当します。

サンプリングレートとゲイズ コンティンジェンシー

見ている場所に応じて何かを呈示するといったゲイズコンティンジェンシーの研究では、サンプリングレートが速いに越したことはありません。

被験者が気づかないタイミングで画面上の情報を切り替えるためには、視線をハイスピードでサンプリングし、画面上の特定の領域を視線が横切った瞬間やターゲットに向かってのサッカードが起こった瞬間を即座に検出する必要があります。それらを出来るだけ早く検出することでサッカード中に画面上の情報を切り替える時間に余裕が生まれます。
このように、ゲイズコンティンジェンシーでは画面上の刺激呈示などのタイミングや、アイトラッカーからの視線データの精度が重要になります。
しかし、サンプリングが速ければ速いほどデータの処理にかかる時間や負荷などを考慮する必要があるということは覚えておきましょう。

サンプリングレートと瞳孔径データ

瞳孔径の反応は速くないのでサンプリングレートを高くする必要はありません。例えばヒップスと呼ばれるリズミカルな瞳孔の運動は1秒間に1~2回の頻度で起こるため、目を撮影するデバイスであれば検出可能です。また、メンタルワークロード(精神的な作業負荷)の変化によって引き起こされる瞳孔径の変化も数秒の遅れがあります。(Klingner, Kumar, Hanrahan, 2008)

他センサーとの同期

皮膚電位(EDA; ガルバニック皮膚反応 - GSR)、筋電(EMG)、心電(ECG)、呼吸などの他のセンサーと同期する場合、センサーごとにサンプリングレートが異なる場合があります。データを共通のサンプリングレートに合わせることが目的の場合はサンプリングレート変換の標準的な手法もあります。(Wikipedia:サンプリング周波数変換を参照)

Tobii Proラボでは、Shimmer社の GSRのような他センサーを同一ソフト内に追加して記録することが可能です。様々なサンプリングレートを処理し、共通のタイムラインに調整します。

参考文献

Andersson, R., Nyström, M., & Holmqvist, K. (2010). Sampling frequency and eye-tracking measures: how speed affects durations, latencies, and more. Journal of Eye Movement Research, 3(3). doi:http://dx.doi.org/10.16910/jemr.3.3.6

Klingner, J., Kumar, R., & Hanrahan, P. (2008, March). Measuring the task-evoked pupillary response with a remote eye tracker. In Proceedings of the 2008 symposium on Eye tracking research & applications (pp. 69-72). ACM.

Juhola, M., Jäntti, V., & Pyykkö, I. (1985). Effect of sampling frequencies on computation of the maximum velocity of saccadic eye movements. Biological Cybernetics, 53(2), 67-72.

Sample-rate conversion (n.d.). In Wikipedia. Retrieved February 21, 2018, from https://en.wikipedia.org/wiki/Sample-rate_conversion

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