アイトラッキングはデジタルサイネージ評価に役立ちます。

「見る」ことと商品選択の関係に ついての既存の実証研究では、 対象物への注視と商品評価(選 択)との間には相関関係が確認 されています。そこで消費者は 「好きだから見ている」のか、「見 るから好きになるのか」というこ とが問題となっていましたが、カ リフォルニア工科大学の下條伸 輔教授の一連の研究から、対象 に目を向ける活動には好意を増 大させる効果があり、「見るから 好きになる」メカニズムが存在す ることが明らかになってきています。

背景

これまでのセールス・プロモーションに関する 研究では、①売上に与える影響、②消費者行 動に与える影響、の 2 つのタイプの研究があ りました。ただ、①の研究では購買過程がブ ラックボックスであるため、なぜ売上の変化が 生じたのかが分からないという問題点があり、 ②の研究では、消費者に対して多くはアン ケートによって自覚的・言語的な指標を用い ることがほとんどであるため、無自覚的・無意 識的な購買過程がよく分からないという問題 点がありました。特に消費者の情報処理の大 部分が無自覚的・無意識的であるということ が最近では分かってきており、この購買過程 を捉える手法として、fMRI や脳波などととも にアイトラッキングが注目されてきています。

アイトラッキングは、デジタルサイネージへの視覚的注意を測定します。

早稲田大学大学院商学 研究科の守口剛研究室では、こ の「見るから好きになる」という 性質をセールス・プロモーション へ応用できるのではないかと考 え、誘目性の高いセールス・プロ モーションツールであるデジタル サイネージ(電子看板)が、消費 者に商品を見させることを促進 し、その結果商品の選択確率が 高まるのではないかという仮説 検証に関する調査をおこないま した。

潜在的、無自覚的な消費者の購買過程の測定に、最適なツールの一つである
アイトラッキングは、その技術進歩によって、簡単に利用できるものとなった。これ
によって、視覚マーケティング研究は飛躍的に進展を遂げており、消費者の視線
をマネジメントするセールス・プロモーションは益々活用されることになるだろう。

Takeshi Moriguchi, Waseda University Graduate School of Commerce

手段と方法

実験は、Tobii P2つのカテゴリー(緑茶と酸素水)で、 それぞれセールス・プロモーションの対象商 品および比較商品の2商品によっておこなわ れました。 カテゴリー1 緑茶 対象商品を「キリン生茶」とし、比較商品を「伊 藤園 おーい緑茶」としました。共に良く知られ た商品で、事前調査においてもほぼ同じ確率 で選択されています。 カテゴリー2 酸素水 対象商品を「サンガリア さわやか酸素水」と し、比較商品を「日本食研 酸素水プラス」とし ました。酸素水が低い認知率のカテゴリーで あるため、実験参加者の購買経験がほとんど 無い商品です。

刺激条件は 3 種類用意しました。

1. 統制条件-それぞれ2つの商品を商品 棚に左右に同数ずつ並べただけ

2. POP 条件-緑茶と酸素水の統制条件 と同一の商品棚に、対象商品(キリン生 茶、またはサンガリア さわやか酸素 水)の POP を貼付したもの

2. デジタルサイネージ条件-緑茶と酸素 水の統制条件と同一の商品棚に、対象 商品(キリン生茶、またはサンガリア さ わやか酸素水)のデジタルサイネージを 貼付したもの

The POP and Digital Signage promotions.

Tobiiのアイトラッカーは、その使いやすさと測定能力の高さにより、とても優れたものです。スムーズなキャリブレーションで、収集したデータの品質のスクリーニングが可能です。

Hiromichi Nakagawa, Waseda University

TobiiStudio は、研究者が注視データを分析 するために使用されました。TobiiStudio に よって計測された注視時間によって、統制条 件や POP 条件に比べて、デジタルサイネー ジ条件の方が、デジタルサイネージへの注視 時間の変化、および対象商品全体への視認 時間の変化を確認しました。

TobiiStudio の「興味領域」ツールを使用した 統計によると、POP およびデジタルサイネー ジへの平均注視時間は以下の通りで、緑茶 でも酸素水でも、刺激条件間で統計的な有意 差が見られました。

条件 緑茶      酸素水    
POP 0.93 sec  0.89 sec
デジタルサイネージ 2.55 sec 2.16 sec

緑茶においては、対象商品選択者と比較商 品選択者との間で POP およびデジタルサ イネージを注視する時間にそれほどの違い はありません。それに対して酸素水において は、POP を注視する時間は 2 倍程度でした が、デジタルサイネージを注視する時間は 7 倍以上となっています。 緑茶に比べて、酸素水ではデジタルサイネー ジへの注視時間が特に商品選択に影響を与 えていることが分かります。 対象商品選択者の POP およびデジタルサ イネージへの注視時間(対比較商品選択者; 対象商品非選択者に比べて POP およびデ ジタルサイネージをどれだけ注視している か?)

The POP and Digital Signage promotions.

これらの結果は、カリフォルニア工科大学の 下條伸輔教授の「見るから好きになるメカニ ズム」が存在するという視覚的注意と選択と の関係に関する研究と整合的なものとなって います。 前述のとおり、デジタルサイネージのコンテン ツは、POP の背景を動画にしただけの単純 なものでしたが、POP よりも長い注視時間を 獲得し、対象商品への注視時間を長くし、馴 染みのないカテゴリーの酸素水では、商品選 択率を大きく上昇させました。 馴染みのある カテゴリーでは意識的な選好判断の前に、被 験者は既に無意識に商品選択をしている可 能性が高いと考えられます。一方、馴染みの ないカテゴリー つまり未知の商品について は、誘目性のあるプロモーションによって商 品選択率を高める可能性を裏付け、その比 率を定量化できる事を示唆しました。

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